株式会社Aikomi(以下、Aikomi)は、認知症の方と家族、介護士のコミュニケーションをサポートするツール「Aikomiケア」を提供する企業です。

同社は「認知症と共に生きる」を理念に、認知症に関わる人々のクオリティ・オブ・ライフ(以下、QOL)向上を目指しています。従来、認知症周辺症状*には発症後の薬物療法が主流でしたが、Aikomiではデジタルツールを用いた「総合的非薬物療法」を採用。認知症の周辺症状を緩和することで、自律したシニアライフを送れる社会の実現を目指します。

*認知症に伴う行動や心理的な変化は、周辺症状またはBPSDとして知られていますが、現在海外ではResponsive behavioursやChallenging behavioursと呼ばれることも多いようです。

Aikomiは、2018年に武田薬品のAIテクノロジープロジェクトからスピンアウトする形で創業。2019年に大日本住友製薬と認知症に伴う行動・心理症状を緩和させる医療機器の共同研究に関するパートナーシップを締結しました。さらに2020年8月には損保ジャパンも含めた3社連携を合意。大日本住友製薬が専門とする精神神経系医薬の知見と、Aikomiの技術プラットフォーム、SOMPOグループが介護事業を運営するなかで獲得した現場視点を活かし、認知症周辺症状ケアの新たなスタンダードの確立を目指しています。

今回は、認知症の方々が自分らしく生きることを支える「パーソンセンタード・ケア」の理念の実現に挑戦する「Aikomiケア」についてご紹介します。

認知症ケアにおける周辺症状ケアへのアプローチ

内閣府のデータによれば、認知症の社会的コストは2030年には21兆円を上回ると言われています※1。また、2025年の段階で認知症の方はおよそ700万人に上ると言われており、65歳以上の高齢者の約5人に1人に達することが見込まれています※2

現在、認知症の周辺症状ケアは介護現場を中心にさまざまなかたちで実践されています。しかしながら、認知症介護の現場では要求される専門性が高く、かつ属人的に業務が行われています。認知症の方のQOLを向上させつつも、個別化・自動化されたケアを提供しなければ、少子高齢化が進む日本の医療を支えられない。それゆえイノベーションによる改善余地が残されている領域だと考えられています。

また、精神神経疾患からの回復をはかる「メンタルレジリエンス」の観点も重要です。認知症を発症してもできるだけ長く自律した生活ができるように、ご家族や介護従事者と相互関係を良いものにする社会的なケアの提供を目指しています。

認知症は、本人だけの問題ではなく、ご家族や介護者が「対話・関与」を通して結びつくことで信頼関係を構築することが重要です。それによって認知症をもつ当事者だけでなく介護従事者のQOLを向上させられると考えています。

大日本住友製薬とAikomiは、認知症の方が、その人らしい活力ある人生を全うする支援を行いたいと考えています。すなわち「認知症の方の自律したシニアライフ」の実現です。このビジョンを目指して、新たな事業開発に取り組んできました。

認知症における3つの課題

認知症と共に生きていくことが多くの人にとって非常に困難

認知症には、3つの大きな問題があります。第一に有効な治療薬がないこと。第二にほとんど全ての認知症の方に周辺症状が発生すること。第三は、認知症になると周囲の人との相互関係性が変化することです。

認知症の主な症状は、「中核症状」と「周辺症状」に大別されます。中核症状は、脳から起こる記憶障害や認知機能障害で、「新しいことが覚えられない」「日付や場所がわからない」といった症状です。

それに対して、周辺症状は、中核症状に加えて環境的・身体的・心理的な要因による相互作用の結果として、さまざまな精神症状や行動障害が生じることを意味します。具体的には、興奮や無関心、不安などの心理・行動変化が挙げられます。

これまでの認知症治療では、中核症状に対する薬物療法が主流でした。しかしながら周辺症状は、非薬物療法が治療ガイドラインで推奨されています。例えば「突発的に興奮して逸脱行動を起こすことで、大切な人との関係性が悪化し、相互性を失って本人の症状や周辺症状が悪化する」など、薬物治療だけには頼れない課題があるからです。

これまでの周辺症状の治療には、回想法、音楽療法、運動療法といった非薬物療法が用いられていますが、これらの治療法はエビデンスや体系化が不十分であり、属人的要素が多いことが課題となっていました。

パーソンセンタード・ケアの理念

Aikomiは、認知症の方とのつながりやコミュニケーションを促進するツール「Aikomiケア」を提供する企業として、認知症の方一人ひとりの人生背景、能力、好みに合わせた個別化プログラムを提供し、介護者の技量によって非薬物療法の効果が左右されるという課題に向き合っています。

また「Aikomiケア」は、認知症の方々が自分らしく生きることを支える「パーソンセンタード・ケア」の実現をサポートする手段の1つになると期待しています。パーソンセンタード・ケアは、認知症の方々の個々の人間性を尊重します。「認知症の方々」「ご家族」「医療・福祉従事者」が有機的なつながりを持ち続けることが、認知症治療に不可欠であると考えられています。代表取締役のニック・ハード氏は「Aikomiケア」の開発時もその理念を第一に考えていたと語ります。

「介護やコミュニケーションは人間がやるべきことであり、ロボットや技術に全てを任せるのは良くありません。コロナ以後、認知症の方々の周辺症状がかなり悪化したというデータがあります※3が、これは認知症の方にとって、人とのコミュニケーションが極めて重要な意味を持つことを示しています。また介護する家族側も、大切な人を介護することで、子育てと同じように得るものがたくさんあるはず。ですから『Aikomiケア』はあくまでコミュニケーションをサポートするツールに徹しているのです」(Aikomi 代表取締役 ニック・ハード氏)

提供ソリューション「Aikomiケア」の特徴

これまでの人生の物語が、これからのケアに

「Aikomiケア」サービス内容とサイクル

「Aikomiケア」は、まずはコンシューマー・介護用途の事業展開に注力しています。その具体的なサービスでは、週一回30分程度、刺激プログラムを見ながら認知症の方々に会話を楽しんでもらいます。刺激プログラムではご家族からのヒアリングを基にして認知症の方の感覚を刺激する画像や映像、音源、例えば昔の家族写真などもデジタル化して、それぞれの好みや人生に合わせた非薬物療法プログラムをタブレット端末に保存し、ご家族や介護者に提供します。

介護者は、コンテンツを認知症の高齢者に見せながらコミュニケーションします。Aikomiケアを使用されてきた多くの介護者の皆さんから認知症の方々とのコミュニケーションが円滑化され、相互関係が改善したとの意見をいただいています。認知症の方にとって想い入れがある刺激プログラムを見ながら、家族や介護士とのコミュニケーションを通じて感情のつながりを促進し、認知症周辺症状の治療だけでなく、認知症に関わる全ての人のQOL向上の実現を目指しています。

Aikomiケアでは、過去の人生経験などの個々人のライフストーリーを刺激プログラムとすることで、認知症の方々の長期記憶や感情に刺激を与える心理的介入を実施します。継続して利用することで認知症の方の情動安定化、意欲回復の可能性も確認されています。プログラムの視聴前には表情に活力や発話が少なく、無気力気味だった認知症の方々が、視聴後には感情が豊かになり自発的に発話ができるようになっていくことを期待しています。

以下が、「Aikomiケア」の具体的な仕組みです。

  • 1. 家族から認知症の方のライフストーリー、興味、趣味などできるだけ多くのライフログ情報を収集して、個人のプロファイルを作ります。
  • 2. このプロファイルに関係する写真や動画、音源などの感覚刺激コンテンツを集め、プログラムを作ります。
  • 3. 認知症の方にプログラムを見せて、反応の行動をモニターします。例えば、話す、指差す、動かす、歌うなどを把握します。
  • 4. 感覚刺激と行動データの分析を行って、コミュニケーション、集中力、意味があるエンゲージメント向上のために、プログラムを最適化します。

このプログラムは対面だけでなく遠隔でもリモート操作ができるため、家族がその場に居合わせなくても可能です。また将来的には、AI技術を用いてプログラムの生成プロセスの半自動化を目指しています。

実際の体験者として、認知症の母親を持つ娘さんが、「Aikomiケア」を遠隔で1年間、週1回30分ずつのペースで使用した感想をこう語っています。

「最初は全然わからなかったことが、Aikomiケアを何回か観ている間に、だんだん理解できているのを感じます。おじいちゃんも最初は『だれ?この人?』と言っていたのが、だんだんわかるようになり、『すごく楽しかった』と言ってくれるようになりました。Aikomiがあれば遠隔でも介護できますし、むしろ介護士さんとの連帯感は強くなったと感じます。なにより、親孝行させてもらっていると感じることが嬉しいですね」

認知症ケアの新たなスタンダードの確立を目指す

介護事業を運営する損保ジャパングループを含めた3社連携*

*2020年8月三社連携覚書を締結

ここまで紹介してきたように、認知症の周辺症状ケアには介護現場で実施される非薬物療法が必要であり、それは認知症の方だけでなく、そのご家族や介護者も巻き込んだケアの実施が必要になります。そのため、ケアに関わる皆さんのQOLまでを含めたコミュニティ全体のことを考える必要性があります。

大日本住友製薬としても、この介護領域を含めた認知症ケアの事業開発を進めていくうえでは、介護事業に精通している企業との連携が必要だと考えました。2020年8月には損保ジャパン様との3社連携を合意。大日本住友製薬が専門である精神神経系医薬の知見と、Aikomiの技術プラットフォームを、SOMPOグループが経験してきた認知症に対する先駆的な取り組みや、介護事業を運営する中で得られた現場ニーズに掛け合わせ、新たな認知症周辺症状ケアの市場創造を進めていく予定です。

Aikomiケアは2020年度末に介護用途として試験販売を開始し、コンシューマー・介護用途での本格販売は2022年度を予定しています。現在は本格販売に向けて準備中であり、機器の販売拡大に向けてのユーザビリティ検証だけでなく、有望なビジネスモデルの確立やエビデンス取得を目指した臨床研究の計画も検討しています。

また、介護用途での本格販売開始後には、周辺症状自体の緩和を目指した医療機器として開発を実施するかどうかを判断予定です。認知症に伴う周辺症状に対する体系化されたスタンダードケアの確立を目指して尽力しています。

今回のAikomiプロジェクトのほかにも、大日本住友製薬フロンティア事業推進室では、自社がもつ精神・神経疾患領域における医薬品の研究開発で培った知⾒と、様々なビジネスパートナーの独自技術や知見、特許をかけ合わせることで、研究や事業開発に取り組んでいます。パートナー企業としてコラボレーションの可能性を検討いただけそうな方は、ぜひお問い合わせください。


<出典情報>

  • ※1内閣府「2030年展望と改革タスクフォース報告書」
  • ※2認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン) - 厚生労働省
  • ※3⽯井伸弥 “新型コロナウイルス感染症の拡⼤により、認知症の⼈の症状悪化と家族の介護負担増の実態が明らかに” 広島⼤学ニュースリリース 20200730

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