株式会社do.Sukasu(以下、do.Sukasu:ドスカス)は、脳科学のアプローチを用いて誰もが簡単に楽しく使える視空間認知能力*評価システム「VR de.Sukasu:ブイアールデスカス」などを開発している企業です。同社は、「優劣でなく個性に寄り添う社会の実現」をミッションに、ヘルスケア、教育、運転、運動などの多岐にわたる分野において技術・事業開発を行っています。
*視空間認知能力とは、視覚によって「物の位置、距離感、遠近感」を認識する視覚認知能力の一つです。詳しくは後述します。

do.Sukasuは、大日本住友製薬と共創型新規事業開発に強みを持つCo-Studio株式会社の2社が協業するなかで生まれました。視覚認知評価の特許技術を社会実装するために2020年6月に設立され、Co-Studio株式会社から特許の発明者である笠井一希がCEOとして参画し、大日本住友製薬からは特許の共同発明者であるフロンティア事業推進室の落合康がCTOとして参画しています。

このdo.Sukasuの体制は、大日本住友製薬が革新的なアイデアを外部との協業で生み出すことを目的とした出島戦略、すなわちインキュベーション型と対比して「エクスキュベーション型」と呼ぶ新規事業開発方針によって生まれています。

視覚認知評価の特許は、大日本住友製薬が保有。do.Sukasuがスタートアップならではのスピードで仮説検証や事業化機会の探索を実施し、大日本住友製薬が医療/ヘルスケア領域における潜在的な事業課題や知見を提供することで、ともに「個性に寄り添う社会」の実現を目指しています。

本記事では、「ふつうとは違う人」が活き活きと暮らせる社会を目指すために、個性に通ずる「視覚認知能力」を客観的・定量的に評価してパターンを把握できるツール「VR de.Sukasu」についてご紹介します。

「ふつうとは違う人」が活躍できる社会の実現

個性に寄り添う社会の実現

「多様性」「包括性」という言葉が使われ始めて時間が経ちますが、「どのような多様性があるか」の共通認識はあまり持たれていません。暗黙的に「ふつう」を前提に組み立てられた社会では、目に見えづらい場所で苦労している「ふつうとは違う」人が数多く存在します。

大日本住友製薬とdo.Sukasuは、現代の日本が多数派の「ふつうの人」に最適化された社会システムであるがゆえに、特殊な能力・個性を持つ人たちが潜在能力を発揮しづらく、自信や自尊心をもって生きていくことが困難であると考えています。

また「ふつうとは違う」人たちの多様な「能力」が活用されないことは、社会にとって大きな損失です。野村総合研究所によると、発達障がい人材サポート不足による日本の経済損失額は2.3兆円だと推計されており、潜在者を含むとさらに2.5倍の損失に膨れ上がると見られています※1。これに対して、発達障がい人材へサポートを実施した際に、全体平均に対する生産性は117%向上するとされています※1。また発達障がいだけでなく、認知症患者が自立できないことによる社会的コストは14.5兆円にものぼると慶應義塾大学医学部が推計しています※2

do.Sukasuの挑戦する社会課題

このような「ふつうとは違う人」が持っている能力を発揮して生きられる社会とはどのようなものか。さまざまな議論を重ね、個人が社会に合わせるのではなく、社会が一人ひとりの個性に寄り添えることが重要だと考えました。社会という「ふつう」が中心から離れて分散すれば、「ふつうとは違う」も無くなり、個性が自律します。

そこで生まれたのが、「社会が個人に寄り添うためには何が必要か」という問いです。そのひとつの答えが、まずは違いを可視化し、個性として相互理解を進めること。言い換えれば、一人ひとりの個性を正確に把握することだと考えています。

個性に通ずる性質としてまず着目したのが、「視覚認知能力」です。人間はモノを見て、それが何かを判断する能力が一人ひとり異なっています。ある人が持つ特有の世界の見え方やパターンが分かれば、その人の個性を客観的に評価できる。do.Sukasuはその着眼点から生まれ、一人ひとりの視覚認知を正確に評価する技術を発明しました。

視覚認知能力によって個性を把握する

着眼点:視覚認知能力

心理学者のハワード・アール・ガードナーが提唱しているMI理論(Theory of Multiple Inteligences※3)によれば、人間の能力は8つに分類され、各能力に応じて適した職業があるといいます。また、人間の能力は脳で決まるともされ、脳の働きを把握できれば客観的に能力を見える化できるとされます。

人によって、コミュニケーションや人の顔の覚え方など、脳での情報処理の仕方は異なります。それゆえ、脳の情報処理特性を把握することで、それぞれの人に適した技能を提案可能と考えられます。そこで、do.Sukasuでは脳の視認特性である視覚認知能力を“透かす”ことを通して、個々人の特性の把握・提示を目指しています。

視覚認知能力には、物体認知能力と視空間認知能力の2つがあります。

ひとつは、「物の位置、距離感、遠近感」を視認する視空間認知能力です。この特性では、物体を見たときに、それがどの方向にどれくらいのスピードで向かっていくのかを把握します。それによって、その物体は自分に対して危険を及ぼすのか、自分はどう判断すべきかを理解できます。

もうひとつは、「線、図形、文字」を視認する物体認知能力です。この特性は物体の色や形、模様から、その物体が何であるかを瞬時に把握できます。

視空間認知能力と物体認知能力、このふたつは同じ視覚認知能力です。しかし、実は脳の中でそれぞれを情報処理するときに活動している部分が異なります。視空間認知では頭頂葉が、物体認知では側頭葉が活発化しているのです。

メンタルローテーション課題

このふたつの能力を測定する方法の例として、「メンタルローテーション課題」が挙げられます。左側の図に20個の手形があるうち、「右手」の手形を10個探せと指示された時、図を回転させて一致する手形を探すのか、図を回転させなくとも、右手がどんな方向か瞬時にわかるのかで、脳のどの部分がより強く働くかを判定するテストです。

メンタルローテーション課題を脳波測定しながら実施すると、図を回転させながら右手を探す人は、脳の頭頂葉の部分(視空間認知能力)が働いていることが分かります。一方で最初から右手はどれかと瞬時に分かる人は、脳の側頭葉(物体認知能力)が働いています。つまり、同じ物を見ていても、物体認知が強い人と視空間認知が強い人で見え方が異なるわけです。

このように、人それぞれ情報処理のしやすさに応じて、使われる脳の部位が変わります。do.Sukasuでは、この脳の活動パターンが異なることに着目し、一人ひとりの視覚認知能力のパターンを客観的に評価することで、個性の把握が可能になると考えています。現在は、複数領域をまたいだ事業や技術検証を通じて、日々、新たな視空間認知能力の評価指標を研究中です。

VR技術を用いて、視覚認知能力を評価する

現在do.Sukasuでは、VR技術を用いて視空間認知能力を手軽に素早く評価できる「VR de.Sukasu」を開発しています。これは、一人ひとりの脳の特性を把握・提示し、それぞれに適したコンテンツを提示することで「ふつうとは違う人」が活き活きと暮らせる社会の実現を目指したものです。

視空間認知能力の評価において、特にVR技術は有効です。人の行動と視空間認知能力との間に非常に相関性の高いパターンがあることを、do.Sukasuは研究の中で発見しました。また、VR空間での人の行動をセンシングすることで、その人の視空間認知能力を推測できると考えています。

この点を「VR de.Sukasu KEEP」というコンテンツを例に解説します。まず被験者がVRゴーグルを着用すると、「前の目標物を追いかける」映像が流れます。被験者には物体との距離がたとえば20メートルになるまで近づき、「これが20メートルです」と学習してもらいます。

「VR de.Sukasu KEEP」の使用例

その後、物体が動き出しますが、被験者には物体と20メートルの距離を60秒間保ち続けてもらいます。これを3セット繰り返します。このコンテンツでは、「きちんと距離を一定時間保てるか」を確認しており、結果に基づいて視空間認知能力を評価します。

その他にも、「VR de.Sukasu CATCH」と呼ばれるコンテンツでは、プレイヤーに向かって飛んでくるシャボン玉を割るシンプルな操作で視空間認知能力の計測を実施します。成功回数やボールまでのズレ(距離)を測定することで、普通のゲームをするように評価が可能です。学術に基づく理論に立脚しつつ、楽しみながら測定を受けていただく設計を改善し続けています。

「VR de.Sukasu CATCH」の使用例

また、物体認知能力を計測するプロダクト「Tab le.Sukasu FIND」も開発中です。FINDではタブレットを使って、いくつも重なり合ったオブジェクトの中から、指定されたオブジェクトを見つけ出す動作を行います。VRコンテンツである「de.Sukasu KEEP」や「de.Sukasu CATCH」により視空間認知能力を計測し、タブレット用コンテンツである「le.Sukasu FIND」で物体認知能力を計測することで、包括的な視覚認知能力の分析が可能になると考えています。

自動車業界から、認知症・発達障がい者支援まで幅広い事業展開

最初の事業開発の方向性(VRでの評価技術の応用)

また、こうしたVRでの評価技術を応用した事業開発も検討しています。現在検討しているのは、車を想定した視空間認知能力の評価です。

車の運転には距離把握がきわめて重要です。現在、高齢者の運転寿命が問題となっていますが、加齢によって視空間認知能力が低下すると、事故を起こす確率が高くなってしまいます。この課題に対してdo.Sukasuでは、ドライブレコーダー等の情報から運転者の視空間認知能力を日常的に評価し、トレーニング・ケアプログラムを作成することで高齢者の運転寿命延伸を実現する方法を考えています。

また車や運転の領域は、視空間認知能力の一軸の評価のみでプロダクト開発が可能なため、ベンチャー企業として迅速にサービスインできることも特徴です。短期事業計画では、自動車業界での視空間認知能力の利用にフォーカス。まずは教習所や商用車・一般車での能力評価やトレーニングへ導入することを目指します。

具体的な取り組みとしては、2021年2月に療養x運転事業を行う株式会社オファサポートと協業。脳特性把握技術を療養や運転へ活かす事業検証に着手しました。「VR de.Sukasu」を用いてオファサポート顧客の脳特性・運転データを取得・分析し、認知症時代における新たな療養事業、運転事業に発展できるかを見定めています。

また、発達障がい者の抱える視覚認知問題への取り組みとしては、放課後等デイサービスや生活介護など障害者福祉施設を運営する株式会社アイムと協業。注意欠如・多動性障害(ADHD)や学習障害(LD)を持つ子どもの読み書きやスポーツ面での「みえにくさ」や、自閉症の子どもが持つ視覚認知の「ゆがみ」に対して、客観的な評価と視覚認知を高めるビジョントレーニングを提供する方法を探っています。

do.Sukasuの知財戦略

また、do.Sukasuは知財戦略も特長です。事業構想の段階で基本特許を出願し、開発・事業展開をする段階で特許が強みになりそうだと分かれば、すぐに特許出願をして磨き上げていく。この知財戦略は一般的なベンチャーと差別化できるポイントだと考えており、中長期的には認知症の予防・ケアや、発達障がい者の教育・就労支援での事業展開に活かしたいと考えています。

今後の中長期事業計画としては、療育施設での発達評価・療育トレーニングや、介護施設での高齢者支援やリハビリ、就労支援や人材育成、そしてスポーツジムや健康促進トレーニングなど、高齢者や障がい者向けのサービスから始まって健常者に役立つ領域まで幅広く事業展開をしていくことを考えています。

また技術的な方針として、将来的にはVRを使わなくても視空間認知能力の評価が可能になることを目指しています。do.Sukasuは研究に取り組むなかで、人の行動と視空間認知能力に相関性の高いパターンがあることに気づきました。すなわち、VRゴーグルを着用しなくても、人間の行動をセンシングするだけで、視空間認知能力を推測できる可能性が見えはじめています。今後はそうした技術開発にも取り組んでいきます。

そのほかにも、大日本住友製薬フロンティア事業推進室では、自社がもつ精神・神経疾患領域における医薬品の研究開発で培った知⾒と、ビジネスパートナーの独自技術や知見、特許をかけ合わせることで、研究や事業開発に取り組んでいます。パートナー企業としてコラボレーションの可能性を検討いただけそうな方は、ぜひお問い合わせください。


<出典情報>

  • ※1野村総合研究所:デジタル社会における発達障害人材の更なる活躍機会とその経済的インパクト
  • ※2慶應義塾大学:わが国における認知症の経済的影響に関する研究 平成26年度総括・分担研究報告書
  • ※3人文公共学研究論集 第38号 p277-291 グローバル時代における多重知能理論の再考:研究推進のための予備的考察と提言(大西好宣)

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