株式会社坪田ラボ(以下、坪田ラボ)は、「VISIONary INNOVATIONで未来をごきげんにする」というミッションを掲げ、近視、ドライアイ、老眼、脳機能改善に革新的なソリューションを開発する慶應義塾大学発ベンチャーです。大日本住友製薬は坪田ラボとメガネをかけるだけでバイオレットライト*を両目に照射し、脳への作用を与えるデバイス「バイオレットライト照射メガネ」の開発を進めています。
*バイオレットライト:太陽光に含まれる波長360〜400ナノメートルの光。いわゆる紫外線(ウルトラバイオレットライト)より波長が長く、可視光である。

坪田ラボは、近視の進行抑制に関する研究で培ったバイオレットライト技術と、「光受容タンパク質」OPN5に関連した知見を有しており、また、バイオレットライトを用いたメガネ型デバイスに関する特許を取得しています。ここに大日本住友製薬が培ってきた精神神経疾患領域における医薬品の研究開発の知見と、脳波プロジェクトなど他のフロンティア事業アセットを組み合わせることで、医療機器及びヘルスケア機器(非医療機器)としての実用化を目指しています。

坪田ラボは、バイオレットライト技術が世界のうつ病と認知症の問題を解決する効果的かつ安全な治療方法になると考えています。うつ病や認知症は薬剤による副作用や患者が薬剤規定どおりの服薬を遵守する「アドヒアランス」の観点が課題となる場合があります。そのため、バイオレットライト照射メガネをかける治療法はこの課題を克服できるのではないかという期待も寄せられています。

本記事では、安全性が高く副作用のリスクが小さいうつ病・認知症の治療デバイスを目指す「バイオレットライト照射メガネ」についてご紹介します。

日本が抱えるうつ病・認知症の課題

日本における認知症の患者数推計と認知症施策推進大綱

*1 内閣府 平成29年版高齢社会白書(概要版)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/gaiyou/s1_2_3.html
*2 厚生労働省(令和元年6月18日認知症施策推進関係閣僚会議決定)
https://www.mhlw.go.jp/content/000519053.pdf

内閣府によれば、2012年度時点で認知症患者は462万人となっており、2025年には730万人まで増加すると推計されています※1。こうした課題を踏まえて、厚生労働省の「認知症施策推進大綱」では、「共生」と「予防」を車の両輪として推進することが掲げられています※2。この「予防」とは、認知症の進行を遅らせ、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指すことを意味します。

また、厚生労働省の調査では、日本のうつ病患者は95.7万人いると推計されています※3。また、日本におけるうつ病に関連した社会的コストは年間約3.1兆円と推計されており、その約半分である1.5兆円がうつ病に関連する労働生産性の低下によって発生していると推計されています※4

日本におけるうつ病患者数とうつ病関連コスト

うつ病に関連する労働生産性の低下は「出勤しているにも関わらず、心身の健康上の問題が作用して、パフォーマンスが上がらない」プレゼンティーズムや、「心身の体調不良が原因による遅刻や早退、就労が困難な欠勤や休職など、業務自体が行えない」アブセンティーズムによって引き起こされます。

こうした背景から、坪田ラボと大日本住友製薬は認知症やうつ病は病気になってから治療を開始するだけでなく、予防への取り組みも重要と考えています。ヘルスケア領域で、安全かつ日常的に実践可能なユーザビリティに優れた予防策が求められています。

着眼点は「眼の仕組み」

バイオレットライトとは?

バイオレットライトとは、太陽光に含まれる、紫外線の手前にあたる波長が360〜400ナノメートルの光を指します。可視光の中では一番波長が短く、紫色をしています。いわゆる紫外線(ウルトラバイオレットライト)は目に見えませんが、バイオレットライトは可視光です。

坪田ラボがバイオレットライトに着目したのは、近視の研究からでした。「近視は外で遊ばない子ども達に発生する」ことが明らかとなり、その理由にはバイオレットライトの光受容体であるOPN5が関係していることが発見されました。またOPN5を刺激することで眼の血流が良くなり、近視が予防できることが証明されました。※5

人間には9つの光受容体があります。そのうち視覚系の光受容体は4つです。色を見るための光受容体、OPN1の「青・緑・赤」。そして、星明かりを見るような本当に暗い場所で光を検出する光受容体、OPN2です。

光受容体

そのほかにも、例えばひまわりは目が無くても太陽光の方向へと伸びるように、非視覚系受容体が人間には5つ備わっています。この中でも有名なのが、「ブルーライト」を受容するOPN4です。例えば、「ブルーライトを夜に浴びると体内時計に影響を与え、睡眠の妨げになる」といった光の作用が良く知られています。

こうした非視覚系光受容体の一つが、OPN5です。これは主にバイオレットライトによって刺激される光受容体として知られています。坪田ラボのマウスを用いた研究では、バイオレットライトが眼の中にあるOPN5を刺激して脳へ作用すると、脳内の視床下部などの働きが活性化されることが判明しました。つまり、バイオレットライトはOPN5を介して脳に直接働きかけることができると言えます。

バイオレットライトを用いたプロダクト開発

こうした眼の構造への理解を踏まえて、坪田ラボでは光を使った「Light for Health」を推進しています。バイオレットライトが「体温を変える」や「眼の血流を改善させる」といったこれまでの研究報告や研究成果の事業化を目指しています。言い換えれば、昔から言われている「太陽光を浴びると体にいい」といった知識を深化させ、健康増進の方法を模索します。

坪田ラボでは、現在増加しているうつ病や認知症、睡眠障害などさまざまな病気と、OPN5との関連性を検証しています。例えば、マウスを使用した実験では、アルツハイマー病の原因と考えられている物質がバイオレットライトの照射で減少し、また、高齢マウスの記憶力低下が抑制されることが明らかになっています※6。その他にも、バイオレットライトを照射したマウスは、抑うつ症状が改善するといった研究もあります※6

新型コロナウイルス感染症により、人々の外出や運動の機会は少なくなっています。それに伴い、糖尿病や肥満、近視、うつ病、認知症といった疾患の患者数が増加する可能性が懸念されますが、坪田ラボが発見したバイオレットライトに関する知見を活用することで、課題解決に繋げていきたいと考えています。

有効性と安全性を検証し、医療機器としてリリースへ

現在開発している「バイオレットライト照射メガネ」は、通常のメガネと同様の形状で、かけるとフレーム内側のLEDからバイオレットライトを1日あたり数時間、目に照射する仕掛けです。バイオレットライトは人間の目に見えるぎりぎりの光であるため、違和感なく日常生活が送れます。また、使用方法はメガネをかけるだけの簡単なデバイスのため、優れたアドヒアランスを期待しています。

既に、坪田ラボは2019年4月より小学生にメガネをかけてもらう臨床試験(治験課題名「近視を有する学童を対象にTLG-001の安全性及び有効性を評価する無作為化二重盲検シュードプラセボ対照並行群間比較探索的臨床試験」)を実施し、バイオレットライト技術を用いた近視進行抑制における、医療機器の安全性が確認されました。

本来は屋外で生まれて活動しているホモサピエンスが、生きるなかで浴び続けてきた太陽光の一部を利用しているバイオレットライト技術は、安全性の高い技術だと坪田ラボは考えています。また、当社は太陽光を浴びる機会が少なくなった現代の人々を太陽光に含まれるバイオレットライトで刺激し、脳を介した作用でさまざまな疾患を治療/予防していくアプローチは、非常にユニークだと捉えております。

「ウェアラブル脳波計」などとのシナジーも期待

バイオレットライトはうつ病・認知症等の精神疾患治療において効果的かつ安全な治療方法になる可能性があります。坪田ラボが関わる研究では、さまざまな技術で918件の論文掲載があり、44の特許を出願し、既に9種類の製品が市場に出ています。

坪田ラボと大日本住友製薬は、現在も共同研究を継続しております。研究用のメガネ型バイオレットデバイスの開発は2020年度に完了し、今後のスケジュールとして、共同研究として実施している非臨床研究と坪田ラボが独自に実施している特定臨床研究の結果を合わせてGo/No-Go判断を行い、Go判断となった場合は、次のフェーズの共同開発契約に進み、治験フェーズへ入ることを想定しております。

また、このバイオレットライトの脳への作用を、大日本住友製薬の「ウェアラブル脳波計」で捉えるといった、他のプロジェクトとのシナジー効果も期待されています。単にバイオレットライトを照射するデバイスとしてではなく、個人の生活習慣に合わせて、最適なバイオレットライトの使用方法を提案するサービスとして提供できれば、より人々の健康に貢献できるのではないかと考えています。

そのほかにも、大日本住友製薬フロンティア事業推進室では、自社がもつ精神・神経疾患領域における医薬品の研究開発で培った知⾒と、ビジネスパートナーの独自技術や知見、特許をかけ合わせることで、研究や事業開発に取り組んでいます。パートナー企業としてコラボレーションの可能性を検討いただけそうな方は、ぜひお問い合わせください。


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